おやつは共通言語

2019.12.15

「出版のきっかけはなんですか」 「どうして本を作ろうと思ったのですか」という質問は良く頂きます。きっかけは2016年の初めにパイ・インターナショナルの編集者さんに、なにか本を作りませんか?というふんわりとしたお声がけを頂けたからです。作品づくりをしたり、おやつ作りをしたり、日常の発信をしたりしている川地さんの本を何かつくりたいと言ってくれる貴重な編集者さんがいました。

本という媒体は好きですが、出版社から本を出したいと切望していたわけではなく、なぜなら私は昔から、自分でリトルプレス「カワチ製菓つうしん」を、自分で編集したり印刷したりして何度か作っていて、好きに作りたい本は小規模ながらそういう形でも実現できるからです。

出版社さんとのお仕事、その響きにはわくわくもありつつも、一人で全部作ることが好きな(言い換えれば人に頼みごとをするのが下手な)体質としては不安もありました。 でも、成功するかわからないけどやってみたらどんなものになるのかの実験として、今年の貴重な経験として、挑戦してみることにしました。

そこから長い道のりがありましたが、作品紹介あり、おやつあり、日常あり…という本になりかけたのですが、いろいろ詰め込むのは私が好きに作っているカワチ製菓つうしんや、このHPでもできることですし、「カワチの本」になってしまう。本って、手になじむと所有した方にとっての「私の本」に変化していくのが良いところですし、そういう本にしたかった。

本屋の売り場で、初めましてとなる方も多いでしょう。なのでまずは、共通言語にもなるおやつレシピ本という媒体に設定したいと思ったのでした。色々な活動をしているからこそ、逆にレシピ本という制限を設けることが必要。枠にはめることで、その人らしさはにじみ出るものだとおもいます。

おやつ は共通言語だとおもっていて、私が金工作家とおやつ作家をやっているのもそれが由縁です。工芸作家です、というと、実は興味を持っていただける方は限られています。

たとえば私は3人兄弟で、陶器商の家に生まれましたが、作家の作品を買うということに関して妹や弟はほとんど興味がありません。うちの弟なんか「あやちゃんのスプーン3000円とかするの?! 百均のスプーン30本買えるやん」とか言いそうです。でもお菓子を渡したら。「おいしいやん。甘くないけど。」と、会話ができます。 お菓子はこれまで、制作活動に興味を持ってもらえる入り口にもなってくれました。

夫や息子ともそうだと思います。年代も性別も違えば趣味が違う人をつなぐ道具。一緒に住むっていうのはどれだけ気が合う人でも大変だと思いますが、食べ物を真ん中に、テーブルを囲む時間が丸く収めてくれていると思います。